雨の日は装備を忘れずに。身体が冷えてしまわないよう、レインコートにだけは特にお金をかけます。質の良い、撥水性の高いものを買い、手入れをして長く使います。
雨が降れば雨を味わいます。都会にいても、雨の気配で空気中がしっとりとする時、どこからかほんのりと土の匂いがしてきます。植物と同じように、私の皮膚全体も春を予感し、喜びにふるえます。
あるときそれを人に話すと、湿気があると頭痛がして気が滅入るといわれて、ちょっと残念でした。たしかに低気圧のため体調に影響はありますが、それ以上に私にとってはひと雨が愛しかったからです。
私は毎日同じ時間に、外へ出てスケッチをするようにしています。どんよりとした肌寒い日もあり、そんな日は気が向かないなあと思いながらも習慣なので、いつもスケッチをする場所まで歩いていきます。そうすると、曇天を映して思いもよらず深いコバルトブルーになった水面が見られたり、幾重にもなった雲からは何本かの光が差し込んでいたり、そんな幻想的な風景に出会えてしみじみ感じ入ってしまいます。
不思議なもので、気が乗らずにぼんやりと描き始めても、描いているうちにだんだん風景が自分の心に入ってくるようになります。そして、自分の心に呼応するように、風景も変わっていくような感覚を味わいます。それは、自分と自然が一瞬つながったような不思議な感覚です。悪天候で誰もいない野原や水辺でこういう経験をするたびに、私は特に美しい風景を独り占めしているのではないかと思ってしまいます。皆さんも日常生活のゆるす限り、美しい雨風とふたりきりになりませんか。
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